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仙台家庭裁判所 昭和45年(家)972号 審判 1974年3月30日

申立人 加藤文(仮名) 他六名

相手方 加藤義朗(仮名)

主文

一  被相続人加藤初雄の別紙第一目録記載の遺産を次のとおり分割する。

(一)  申立人加藤文は同目録一及び二の不動産につき各二分の一の持分と同目録三の2ないし7の不動産を取得する。

(二)  申立人山田早苗は同目録三の11及び同目録四の2の不動産と同目録三の13、14の不動産につき各三分の一の持分を取得する。

(三)  相手方加藤義朗は同目録一及び二の不動産につき各二分の一の持分と同目録三の15、16、18、同目録四の1及び5の不動産を取得する。

(四)  申立人吉田広子は同目録三の17及び同目録四の3の不動産と同目録三の13及び14の不動産につき各三分の一の持分を取得する。

(五)  申立人加藤誠は目録三の8、同目録四の7及び同目録五の1ないし7、11、14、16の不動産を取得する。

(六)  申立人佐々木千代は同目録三の12及び同目録四の4の不動産と同目録三の13及び14の不動産の各三分の一の持分を取得する。

(七)  申立人加藤信裕は、同目録三の1、9及び同目録四の6、同目録五の8ないし10、12、13、15の不動産を取得する。

二  別紙第二目録記載の不動産は申立人加藤慎一の所有であることを確認する。

三  本件手続費用中、長島春雄に支払つた鑑定報酬(金二〇万円)の内金六万円は申立人文の負担とし、その余は各金二万円宛を申立人早苗、同慎一、申立人広子、同誠、同千代、同信裕の各負担とし、その余の費用はそれぞれ支出した者の負担とする。

理由

一  相続人

被相続人加藤初雄(昭和三七年一一月四日死亡)の相続人は次のとおりである。

(なお加藤初雄は旧姓荒井初雄で加藤和雄長女とめ(大正一一年死亡)の婿養子であり、加藤和雄が昭和四年三月一日死亡したことにより家督相続した。)

1  申立人加藤文 明治三二年八月二四日生

2  申立人山田早苗 大正六年一月二七日生(初雄・とめ間の子)

3  申立人加藤慎一 大正八年四月二三日生(初雄・とめ間の子)

4  申立人吉田広子 大正一四年三月二一日生(初雄・文間の子)

5  相手方加藤義朗 昭和二年一〇月二六日生(同上)

6  申立人加藤誠 昭和五年一〇月二四日生(同上)

7  申立人佐々木千代 昭和一一年一二月二日生(同上)

8  申立人加藤信裕 昭和二〇年四月二九日生(同上)

なお、被相続人と先妻亡とめ間の二女良子、四女充子はいずれも二歳未満で死亡している。

二  相続財産

1  本件記録中の不動産登記簿謄本、当庁昭和三〇年(家イ)第二〇八号調停調書謄本、本件当事者の供述を総合し、相続財産は別紙第一目録記載のものと認め、同第二目録記載のものは、申立人加藤慎一の所有に属し、同第三目録記載のものは相手方加藤義朗の所有に属するものと認める。

2  本件遺産の範囲に関し、当初申立人慎一は第二目録記載のものはその固有財産として分割の対象から除外することを希望したが結局当庁昭和三〇年(家イ)第二〇八号不動産贈与等調停事件(申立人加藤慎一、相手方加藤初雄・相手方代理人加藤義朗)について、昭和三〇年五月二七日成立した調停調書(別紙第四記載)第一項及び第五項の条項を前提とすることとし当事者双方とも、申立人慎一名義の第二目録記載の物件は遺産に属するものとし、また前記調停条項第一項の物件(第一目録三の6、7及び第三目録一の1)を被相続人から申立人への生前贈与として認めることとしたのであつた。

3  しかし、第二目録及び第一目録三の6、7記載の物件は、農地であるから、県知事の上記農地贈与についての許可を効力発生要件とすること農地法第三条に規定するところであり(上記調停調書第六項にも県知事の許可条件の記載はある)、本件調停審判の経過、当事者の供述によれば被相続人の生前成立した調停調書に基づく前記農地贈与に関し、当事者より県知事に対する許可申請はされないまま相続開始し、現在に至つていることが認められる。したがつて第一目録三の6、7及び第二目録記載の物件に関する前記調停条項第一項及び第六項の各贈与はその効力発生に至らず、当事者の意向にかかわらず第一目録の三の6、7は遺産に属し、第二目録記載のものは申立人慎一の所有に属するものと認めざるを得ないものである。なおまた前記調停条項第一項において被相続人から申立人に贈与された宅地(第三目録一の1記載のもの)は当時も又現在も相手方義朗の所有名義であり、上記調停条項により相手方義朗が、被相続人の代理人として出頭し調停成立に至つてはいるが当然に所有権移転の効果を生じたものとは認められない。

4  そして相続財産の現況についてみるに第一目録記載の一(宅地)二(居宅)は、相手方義朗が相続開始以前に引続き居住し使用している。なお居宅附属建物畜舎はすでになく、居宅に隣接し相手方義朗が昭和四二年頃畜舎を建て(第三目録の二)使用している。

他の遺産である農地・山林すべて相続開始後現在まで相手方義朗が占有管理耕作している。

三  生前贈与等相続人の特別受益

当事者双方の供述、及び前掲昭和三〇年調停調書の内容を総合すると、本件共同相続人中、加藤慎一の第二目録記載物件の取得(自作農創設特別措置法に基づく国からの売渡)については、従来この農地を耕作していた被相続人が長男である申立人慎一のため、代金を支払い、慎一に売渡を受けたものであることが認められるところからして、結局申立人慎一は被相続人から第二目録記載の農地相当の特別受益を得たものというべきである。そのほか申立人慎一は昭和三七年頃被相続人より金六万円を建築資金として贈与を受けていることが認められる。その余の相続人らは特段の生前贈与、又は遺贈等特別受益を受けたものはいないものと認める。(申立人千代、同信裕が高校卒であり、他の相続人が高小卒であること、又相手方千代の婚姻に際するいわゆる嫁入支度が相手方早苗、同広子らのそれより多少多い点とみられるが、いずれもそれぞれの当時の社会一般の状況より考えてとくに特別受益として計上すべき程度とは認められない。)

四  相続財産及び生前贈与財産の価額

相続財産及び申立人慎一に対する生前贈与の価額は鑑定人長島春雄の鑑定結果に基づき、第一目録及び第二目録の価額欄記載のとおりと認める。

そうすると相続財産総額は五七〇万八、七〇〇円、申立人慎一に対する生前贈与不動産額は三三七万九、八〇〇円となり、これに慎一に対する贈与金六万円を合計した金三四三万九、八〇〇円を民法第九〇三条により相続財産総額に加えて各相続人の受けるべき相続分の価額を算出すると次のとおりとなる。

遺産総額5,708,700円+慎一の特別受益額3,439,800円 = 9,148,500円

文の相続分9,148,500円×1/3 = 3,049,500円

他の相続人の相続分9,148,500円×2/21 = 871,285円

そうすると申立人慎一の相続分は871,285円-3,439,800円 = -2,568,715円

となり申立人慎一の受益分は相続分を越えるから結局本分割によつて受けるべき相続分はない。

したがつて、慎一以外の相続人の具体的取得分は

5,708,700円×1/3 = 1,902,900円………文の相続分

5,708,700円×(2/18) = 634,300円………早苗・義朗・広子・誠・千代・信裕の相続分となる。

五  本件遺産分割に至る経過・当事者の主張

1  本件記録にあらわれた資料を総合すると、相続開始時、申立人文と申立人信裕(当時高校生)は相手方義朗と同居していたが、相手方義朗は相続財産を占有管理して昭和四五年に至り、その頃申立人文が申立人信裕のために相手方所有名義畑(名取市○○字○△△△番)の分与方を求めたのを拒否したことに端を発し、遺産の分配、帰属に関し、相手方義朗と申立人らの親族不和を生じ、昭和四五年二月二二日申立人文と申立人信裕は、相手方義朗の許を出て別世帯をもつに至り、本件遺産分割の協議は整わず結局当庁に遺産分割調停を申立てるに至つたものである。

2  本件遺産の分割について相手方義朗は、自己の農業及び酪農経営に必要な農地として、農地の相手方義朗への分割を主張し、申立人らも当初は相手方義朗の農業、酪農の維持可能な限度の義朗への農地の分配も考慮の上、相手方所有名義分の畑、宅地の分与等を総合して本件遺産分割を処理してもよい意向に窺われたが結局双方の希望は調整がつかず、申立人らは法定相続分による現物分割を求め、相手方義朗は農業を維持し、家を存続させるために相手方義朗の農業経営に必要な農地を相手方義朗に帰属させ他の相続人へは義朗の債務負担によつて分割することを求め、かつ相手方義朗の被相続人に対する農業維持、協力に対する貢献、寄与について特別の配慮、斟酌をなさるべきことを主張した。しかし債務負担についての具体的対策、資金について具体案も出ないまま結局法定相続分による分割をみるに至つたものである。

3  相手方義朗の寄与、貢献について

しかして分割に際し被相続人と共に農業に従事して来た相手方義朗について、その貢献度の参酌の程度について考えるに、相手方義朗は昭和三〇年七月から相続開始時である昭和三七年一一月二四日まで約七年間被相続人と共に農業に専従したものであるところ、その間とくに被相続人の財産の増加があつたことは認められず、かえつて、相手方義朗名義の財産はその間に増加している。すなわち(1)第三物件目録の一の2の宅地、(2)第三物件目録の三及び四の農地がそれである。そして(1)の宅地の登記移転は相続開始後である昭和三九年に第三者からの贈与名義でなされているけれども実質的には、被相続人が買受けていたものを相手方取得としたもの、又(2)の田二筆も買受資金を被相続人が出し、相手方名義に取得したものであることいずれも相手方義朗の認めているところであり、この点を考えると、被相続人は相手方義朗の農業従事の貢献に対し、酬いる措置を講じていたものというべく、他の相続人らにおいても上記(1)、(2)の義朗への帰属を、特別受益分より除外することに合意した点、義朗の相続財産維持への貢献の評価とみるべきところである。しかして又、義朗の被相続人と共に農業に従事した前記七年間、相手方義朗は被相続人と共に第一物件目録ないし第三目録記載の農地及び加藤幹雄、所有田約七畝、高橋則子所有の畑四畝一七歩らを同一経理の下に耕作収益して、被相続人、申立人文、同信裕、相手方義朗及びその家族の生活費用も支弁し、自らは酪農経営を初めその拡張も図り得たこと(相続開始時までのその経営の規模推移は確定出来ない)が認められる。したがつて相手方義朗の約七年間にわたる被相続人の下での農業専業は、他の相続人らに比して無駄働き、被相続人の不当利得があつたものとは認め難くこの点からして相手方義朗に対し本件遺産よりの法定相続分以上特段のいわゆる「寄与分」を附加取得させる根拠は認め難い。

4  相続債務及び遺産の管理収益について

調査の結果、相続開始当時、被相続人は昭和三七年九月三〇日現在○○市農業協同組合○○支所に借入金及び購買金残債務合計三三万五、八二五円があつたことが認められるがこの債務は昭和三八年一月九日、相手方義朗名義に債務者変更の上、同日相手方義朗が債務整理資金として二二万五、〇〇〇円借り受け、その後自己の債務として弁済している。

又、遺産の管理、収益は前記のとおり相続開始後現在までの一〇年余の間、すべて相手方義朗において、その固有財産と共に同一経理で行なわれており、管理費用の確定、他相続人らの分担もない一方、遺産よりの収益の額も明らかでなくかつその分配もなく経過している。

遺産分割に際しては、相続財産の維持管理の費用はこれを確定の上各相続人に相続分に応じて負担させ、一方収益もこれを確定の上相続財産に加えて配分するのが相当と考えられるが、本件遺産の大部分が自作による農地であり、かつ、耕作管理した相手方義朗の固有財産と共にする農業経営の下、本件遺産の収益そのための経費も明確に出来ないので、本件分割においては基本財産の帰属のみを定め、管理、収益費等の清算は前記相続債務負担の清算と共に、各相続財産取得者と相手方義朗との間で別途なさるべきが相当である。

(遺産分割の結果民法第九〇九条に基づき、各個別相続財産は相続開始時に各取得者に所有権帰属することとなるから、個別財産についての管理費、収益もその取得者の負担帰属とすべきものである。)

5  配分の際考慮すべき事情

(1)  相手方義朗は第一目録の一及び二の土地及び家屋を被相続人の生前同様使用居住し、又昭和四二年頃附属建物畜舎をとりこわし、別に畜舎を建築し(第三目録二)同所において成牛一六頭、小牛六頭を飼育し、酪農を営み、かつ前示のとおり第一ないし第三目録記載農地は耕作し来つている。

高小卒後一時団体に勤め、約二年軍隊に入り、復員後、国鉄、会社等に勤務したが、昭和三〇年七月退職、被相続人と同居父死亡後は世帯主として第一目録の一、二の建物を生活の本拠として現在に至つているので、この土地家屋の取得は相手方義朗の第一の必要と思われるが、ほか相手方が希望する債務負担による農地現物の取得については、相手方義朗に債務負担の能力、その弁済の確実性に疑問があり、債務負担の方法は採用しない。

(2)  一方申立人文は大正一三年被相続人と婚姻して以来、昭和四五年相手方義朗との不和で家を出るまで四六年余第一目録の土地、家屋に居住して被相続人と共に農業に従事して来たものである。現在は不和のためこの家との往来もなされていない様子であるが、将来親族の円満な交流が図られ、上記土地、建物も、申立人文も自己の家としてその収益は保持し得るのが望ましいと思われる。

(3)  この点を考慮して、先ず遺産宅地建物は申立人文と相手方義朗の共有(持分二分の一)とし、そのほか相手方義朗にはその残余の法定相続分に充足する限りの農地取得を図るように配慮する。

そして又申立人文にはその希望する野来の農地全部を取得させる。

(4)  申立人誠は高小卒後約三年位、家で農業を手伝い、昭和二三年頃から他に勤め、昭和二七年春頃以来家を出て独立し現在タクシーの運転手をしている。既婚。

申立人信裕は被相続人死亡当時高校生であつたが、昭和三九年三月高校卒業後会社に勤務し、前述のとおり昭和四五年二月以来申立人文と共に別世帯を構え、文及び妻子と共に生活している。

申立人早苗(被相続人と先妻とめ間の長女)は、高小卒後昭和一三年婚姻、婚家は専業農家田畑計一町六反歩位を耕作している。

申立人広子は高小卒後昭和二一年婚姻、婚家は専業農家で田畑約二町二反歩を耕作。

申立人千代は高校卒業後昭和三四年婚姻、夫は地方公務員である。

上記申立人らはいずれも農事の経験あり、現物農地を分割取得の上相協力して耕作は続けて行く意向であり、昨今の土地への需要、経済状勢からして法定相続により当事者に公平な分配帰属を図るためには、現物分割を採用せざるを得ない。

具体的分割土地について上記申立人らには特段の希望もないので、申立人文に野来の農地を、そして申立人文と相手方義朗に土地建物を帰属させた残余不動産から、相手方義朗に帰属させ得る農地(相続分の額に充つるまで)をとり、その余はその余の申立人らの生活状態、立場等を考慮してそれぞれ分配した。現物分割のみを採用するところから生ずる各人取得の価額の凹凸については、物価変動の点、又評価が唯一の鑑定によつている点を考慮し、民法第九〇六条の基準にしたがい分割し現物配分後の価額調整はしないこととし、主文第一項のとおり分割する。

なお、申立人慎一の特別受益について、その所有権の帰属についてこれを明らかに確認しておくことが必要と考えられるので、この点主文第二項において明らかにする。

又、手続費用中、鑑定人に支払われた分は主文第三項のとおり負担させるのを相当と認める。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 鎌田千恵子)

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